2022
Aluminum, tennis ball, wooden board, felt, human body
Aluminum, tennis ball, wooden board, felt, human body
W190cm×D190cm×H290cm
阿波踊りを分析する装置として、2022年に「Touch the tennis ball」という作品を制作した。本作は、テニスボールの付近にある指示に従って身体の一部を触れさせると、おのずと既存の阿波踊りの型〈女 踊り〉〈男踊り〉と、その狭間にあるノンバイナリーな型が取れる作品になっている。個々の身体に合わせてこの装置の大きさを変容できる。舞踊の在り方に対して、個人が持つアイデンティティをある種その場限りに、また瞬時 的に抽出できてしまう意図を持つ。また現在、阿波踊りの身振りがどのようなものであるかを、見る人に意識させることも意図している。
阿波踊りには「手を挙げて足を運べは阿波踊り」という囃子詞がある。そしてこの〈女踊り〉〈男踊り〉の記号的 な身振りは、誰でも踊れてしまう仕組みを持っている。にもかかわらず、この踊りは現代のダンスカルチャーが持つ性差の希薄化という潮流とは異なり、観光政策やメディアの発展の影響を大いに受けたセクシュアリティの視線 の基層を持っていると思う。現在の阿波踊りは「女らしさ「男らしさ」が強調された型である。例えば、女踊りはメディアが発達する前、昭和初期にはもともとなかった踊りの型である。写真に撮られたり、映像に残ったりと他者に見 られたときの美しさを追求した結果、臀部のひねりと足を蹴り上げる動作が、花魁のすり足のような優婉さに近い 形を持つようになった。女性らしく見られることを前提として、美しく体が映る型を形成していった結果、現在の 型になったと言われている。 私は人から人へ受け継がれてきた風流踊が持つ、無形特有の動作パターンに着目している。観光政策やメディア などの影響を受けて発展している風流踊を、身近な素材を用いて体系化し、見られることによって生じる「身振り」 に着目した制作をしている。また既存の踊りの型を解体・体系化することで、踊ることのあゆみを察知できると考えている。